側島製罐株式会社
「良い人生から、良い会社は生まれる」
創業118年の老舗缶メーカーで取り組んだ、社員が楽しく働くための大変革
長い歴史を持つ会社が変化するためには、大きなパワーが必要です。特に、経営者が様々な業務を兼務することが多い中小企業においてはなおのこと。
今回は人材戦略として“社員が自ら考えて、責任を持って働く仕組みづくり“に挑戦する側島製罐株式会社さんを取材しました。
社員一人ひとりが自ら行動できる環境づくり
- 側島製罐株式会社
- 創業:1906年4月
- 所在地:愛知県海部郡大治町西條附田90-1
- 社員数46名(2024年9月時点)
- 事業内容:ブリキ缶・スチール缶の製造・販売 各種プレス加工 その他容器の販売 URL:https://sobajima.jp/
代表取締役 石川貴也さん(写真右)
慶應義塾大学卒業後、政策系金融機関に入社。内閣官房への出向などキャリアを重ねていたが、2020年に一念発起して実家の缶メーカーを継ぎ六代目の代表取締役に就任。
can推進課 木原綾さん(写真左)
2021年に入社した3年目。前職では建設会社にて事務を行っていたが、側島製罐入社後はデザインから営業など様々な業務を行っている。
インタビュアー
側島製罐さんについて教えてください。
石川代表取締役
側島製罐は創業118年の缶メーカーで、缶の製造・販売からデザインや加工まで、缶に関わる様々な業務を行っています。社員数は46人ですが、ここ数年で20代、30代の若い方がたくさん入ってきてくださったので、平均年齢もグッと下がって38、9歳くらいになりました。
インタビュアー
石川さんが代表になる以前はどのような会社だったんですか?
石川代表取締役
中小メーカーにありがちな、言われたことを黙ってやる、昔かたぎの下請会社という感じでしたね。明確な評価制度や給与体系がなく、年々売上げが下がっていたこともあり、社員のモチベーションは下がる一方でした。自分がこれから会社の代表になっていくにあたって、社員が嫌な顔をして働いている状況が嫌で、仕事のやり方をどんどんと変えていくようになりました。
インタビュアー
会社を変えるためにどんなことを行ったのですか?
石川代表取締役
まずは、社員が自分の仕事に集中して取り組めるように、社内環境の整備を行いました。デジタル化やDXを進めて、これまで手書きや電卓を使って計算していた見積りや経理作業を極力なくしました。
その他、社内での決裁業務も全部なくしましたね。例えば備品の購入は、経営者や管理職のチェックを行わず、社員が自分たちの責任でクレジットカードを使って、通販サイトを利用することもできるようになっています。そもそも管理職というポジションの人も存在しません。イメージとしては普段の生活の延長線上で、発注ができるような形です。
その他にも、社員自らが自分の裁量で業務を進められる仕組みである『自己申告型報酬制度』を作りました。それぞれの社員がこれから仕事で実現することを宣言し、それに対して給料を先行投資するという制度で、報酬額は社員を中心に構成される「投資委員会」のサポートのもと、自身が宣言した未来の仕事内容と報酬額のバランスをすり合わせて、最後は本人の意志で給与額を決定します。
給料額を自分で決めることで、それに見合った仕事を果たす責任が生まれ、仕事に対してより納得感を持って働くことができる制度だと思っています。
自分の意志で進めていく様々な業務―――。
インタビュアー
『自己申告型報酬制度』を作って、社員の皆さんにどのような影響がありましたか?
石川代表取締役
これまでは事業の計画や方法を、経営者である自分が一人で考えていました。今は木原さんも含めて、社員それぞれが「小さい経営者」になって自発的に物事を考えてくれているので、すごく助かっています。
例えば、バックオフィスの社員が自ら立ち上げた「シンデレラデー」というお掃除プロジェクトがありまして、朝のくじ引で自分が掃除する場所が決まるという仕組みです。
元々は当番制で掃除を行っていましたが、出張で該当者が不在だとおざなりになり、負担が偏ってしまうこともあったので、事務所を改装したタイミングで新しく仕組みを作ってくれました。くじ引のデザインや分担の仕組みも、社員が自分から進んで作ってくれたのです。
このように、やりたいことがあれば自分でどんどんと進めていくことができる形ですね。
結果的には、2023年10月から『自己申告型報酬制度』を運用して、社員の給料は平均約2万円の上昇、会社全体では年間の総支給額が1000万円アップしています。それに伴って、社員がそれぞれに責任をもって事業に取り組んでくれるので、会社の売上げも徐々に上がっていきました。
インタビュアー
木原さんは様々な取り組みを始めたタイミングで中途入社されたとのことですが、以前の職場との違いを感じる場面はありましたか?
木原さん
一番の違いはトップダウン型の企業ではないという部分でした。部署は分かれていますが、社員同士の関係や仕事に境界があるわけではなく、互いの意見を尊重し合っている環境にすごく魅力を感じました。ただ、自分ですべてを決めて、行動するということは前の職場ではなかったので、初めは戸惑いました。特に、この会社に入ってからデザインの仕事に就いたので、世間一般的なデザイナーの給料の水準も分からなかったのです。
しかし、『自己申告型報酬制度』なら、自分で挑戦したいことをそのままお給料に反映できるので、いろいろなことに挑戦したい自分の性格には合っていると思いました。
例えば、技術者スタッフの若手増員を促進したかったので、新卒の学生さん向けの採用パンフレットを企画しました。学生さんに年齢の近い10代、20代の工場の若いメンバーを集めて、若手チームを結成し、学生さんに近い感性で採用パンフレットのコンテンツを企画していました。
この企画にはもう一つ目的があって、若手社員が通常業務以外のチームで企画して成し遂げることで自主性を育める一助となればという思いもあり、挑戦しました。
会社の改革に向けて、社員と作り上げたMVV―――。
インタビュアー
『自己申告型報酬制度』など、様々な取り組みを進めるに当たって課題はありましたか??
石川代表取締役
社内の反発がゼロというわけではなかったですが、自分が経営を行う中で社員のみんなが暗い顔で働いているのが辛かったのと、自分を育ててくれた会社への恩返しをしたいという気持ちで、様々な取組を進めました。
特に、会社を良くするために約1年をかけてMVV※を作ったことで、経営者である自分と社員でこれからやるべきことを共有できて、尚且つ社員自身が自分の仕事に誇りと責任を持てるようになったと思っています。
他にも、みんなでコミュニケーションが図れるような空間を作ろうと、事務所にエスプレッソマシーンを導入しましたが、コーヒー好きの人が飲みにくるだけの場所になってしまったのでやめてしまったり(笑)。そういった小さな取り組みでもドンドン進めて、ダメだったらドンドンやめればいいと思っています。
社員一丸となって作り上げたMVVという指針があるからこそ、新陳代謝で発展につながっていきますし、社員が楽しく生き生きと働くことができる環境でないと、会社は良くならないですから。
※MVV(Mission Vision Value)...企業活動の経営理念や行動指針のこと。
- Mission
- 世界にcanを
- Vision
- 宝物を託される人になろう
- Value
-
1.歴史を超える価値をつくろう
2.自分の言葉で熱く語ろう
3.まっすぐやろう
4.高めあうために、分かち合おう
5.笑顔に全力でコミットしよう
変わらず会社としての信念を守り続ける―――。
インタビュアー
最後に、お二人の今後の展望を教えてください。
木原さん
弊社では中堅層の社員が少ないので、若い人材が増えたらいいなと思っています。また、先輩からの技術の継承が課題だと思っているので、技術を教える場やチームとして自分たちで考えていく機会を増やすことで、社員全員で成長できるような環境を作っていきたいですね。
石川代表取締役
大切な物をしまっておくという缶の文化を守りつつ、新たな取り組みや事業も進めていきたいと思っています。
ただ、どんなことを進めていくとしても自分たちで考えた『世界にcanを』というMISSIONと『宝物を託される人になろう』というVISIONの信念から外れることはないし、社員もそう考えてくれていると思います。
皆で決めた思いに沿った取り組みを進めることで、社員が胸を張れるような会社でありたいですね。
側島製罐株式会社では、経営者と社員が同じ目線で取り組めるように作り上げたMVVをもとに、社員が自ら積極的に考え、自ら行動できる環境づくりを行っていました。失敗を恐れずに挑戦し続け、新しい解決策や方法を見いだしていく姿勢こそが会社を大きく変革するための“カギ“なのですね。