株式会社幸建
「DXへの苦手意識を持たせないために───」
建設業界の当たり前を変えるDXを活用した業務の効率化
建設業界では長年、発注関係や勤怠状況を紙で管理するなどのアナログな方法が主流でした。しかし、昨今の労働力不足やデジタル化などの社会的な変化に伴って、業界全体に柔軟な対応と革新が求められています。
今回はDXの導入により、“誰もが取り組めるDXの進め方“に挑戦する株式会社幸建さんを取材しました。
- 株式会社幸建
- 創業:1970年3月
- 所在地:愛知県春日井市上田楽町2738-3
- 社員数33名(2024年11月時点)
- 事業内容:
基礎工事業、外構工事業、左官工事業、造成工事業等
URL:https://aichi-hito.jp/company/index/2541


代表取締役 山本邦夫さん(写真右)
19歳から前社長の下で働き始め、会社を継ぎ現場に出ていたが、33歳の時に会社の将来や社員の様子を案じて経営職に専念。現在、DXを中心に様々な取組を進めている。
管理部主任 小田智亮さん(写真左)
入社7年目。管理部に所属し、DX関係の管理から現場の意見を踏まえたシステムの改善まで、DXの推進における中心人物として業務に取り組んでいる。
建設業界のしきたりから生まれた、時代とのズレ―――。

インタビュアー
幸建さんは愛知県内の建設会社で初めて経済産業省のDX認定制度を取得されていらっしゃいますが、どのようなきっかけで取り組まれたのでしょうか。
山本代表取締役
一番は建設業界に若者を増やしたいということでした。歴史が長く、生活に必要な建設業ですが、仕事に対する安定感、信頼感が強く、時代に合わせて仕組みを変えようという意識が低い特徴があります。
そんな中、夏は暑くて冬は寒いなど昔の人が当たり前に考えている厳しい部分を残したまま、今の若者が就職先として選んでくれるかというと難しいのです。
その中で、身近にあるスマートフォンで仕事ができたら、若者がこの仕事を選んでくれるかもしれないと考えたことがきっかけです。
インタビュアー
DXを進めるに当たりどのようなシステムを導入したのですか?
山本代表取締役
まず初めに、社内での連絡がストレスなく取り合える社内SNSツールを導入して、現場のスケジュールの管理や社内の情報共有が簡単にできる仕組みを作りました。
社員が日常で使用しているSNSツールの延長線上で作業ができて、更に現場ごとにフォルダを分けることができたので、写真や資料を簡単に共有することができました。またコミュニケーションも取りやすかったので、現場からバックオフィスも含めて一気に普及しました。その経緯もあって、他のシステムの導入についても反発が起こることなく、自然に進めることができるようになりました。
次に社員の勤務状況をまとめる勤怠管理システムを導入しました。導入前は残業申請を行う作業のために残業してしまうという、本末転倒な事態が起きていました。しかも、それを事務が処理を行う際の入力ミスや、処理量が多すぎて残業につながっていたので、クラウドで管理できるシステムを導入しました。
各担当が直接入力するので事務の入力ミスはなくなりますし、スマートフォンでどこからでも入力できるようになったので、事務所に戻って残業申請を行う時間がなくなり、業務の効率化につながりました。
その他にも日報やワークフローを管理するシステムや発注書や請求書を電子で管理するシステムなど、業務の効率化につながりそうなシステムはどんどんと導入していきました。
小田主任
特にこれまでは勤怠管理が大変で、現場で働く社員が書いた文字を事務で打ち込んでデータ化する際に文字の読み間違えや誰のミスか分からない入力も多かったので、その業務が減った分、日々の業務の負担はかなり減りましたね。
DXを業務にスムーズに取り入れるために―――。

インタビュアー
DXを進めるに当たって、気を付けたことはありますか?
山本代表取締役
現場で働く社員がDXへの抵抗を感じないように、システムの操作が一番苦手な人に合わせるということを考えました。いろいろなシステムを試してみたのですが、複雑なものを導入しても現場も事務も使わなくなって、結局短期間の契約でやめてしまうことも多かったんです。
また仕事で疲れていても簡単に入力できるように3択から選べるようにするなど、極力シンプルな操作にもこだわりました。
スマートフォンを持っていない社員向けに説明会を開催するなど、全員が使い方を理解できることを目指し、操作を覚えた社員は、こんなに便利なのかと驚いていましたね。
インタビュアー
DXを進めていく中で、管理するバックオフィスでは戸惑いはありましたか?
小田主任
自分はパソコン作業が得意だったのですんなりと受け入れていたのですが、パソコンでの作業が得意な人が部署内に他にいなかったので、自分でシステムを組めるようにいろいろと勉強をしました。
山本代表取締役
彼のおかげで不便だと思ったことを自社で改善できるので、すごく助かっています。外部に頼ってしまうと、どうしてもスピードが落ちてしまうので、DXを内製化するというのは大きなポイントですね。
よく他社の経営者さんからは「うちにはそんな社員はいない」なんて言われるのですが、今の若い世代はスマートフォンを当たり前に使っているので、今は詳しくなかったとしても、チャンスを与えて、DX化をその社員に託すぐらいの環境を作っていけば、その人は絶対に伸びると思います。
DXによる変化は社内以外にも―――。

インタビュアー
幸建さんでDXを進めるにあたって、同じ業務を行う協力会社さんからはどんな反応がありましたか。
山本代表取締役
はじめは内部だけでできることを進めていたのですが、発注関係も電子で管理するようになってからは、社員以外の外部の協力会社も巻き込んで説明会を開催したり、マニュアルを作ったりして協力を頂くようになりました。
小田主任
周りの会社も巻き込んでDXを進めていたタイミングでは管理部もかなり苦戦していて、スマートフォンでの作業に慣れていない方々に伝えるにはどんな書き方なら伝わりやすいか、説明会ではどこから説明をすればよいかを考えるのが大変でした。
山本代表取締役
今でこそデータベースで管理を行い、少しずつシステムを使いこなせるようになっていますが、しっかりと順序を立てて導入していく必要がありますね。例えば、はじめに社員が使いこなせないような複雑なシステムを導入してしまったせいで、社員が使わず、DX自体に苦手意識を持ってしまっているという企業も少なくありません。
会社の未来をつくるために―――。

インタビュアー
最後に、お二人の今後の展望を教えてください。
小田主任
今は管理部で、煩わしかった作業を自動化できるようにいろいろなことを進めているのですが、現場で稼働する社員の仕事内容を聞いて、代わりにシステムを作っているとどうしても遠回りになってしまいますし、求めているシステムとの行き違いが生じてしまう可能性があります。
そのため、社員それぞれが自分でシステムを組むことや、自発的に問題点に気づいて改善できるような環境を作っていきたいです。
山本代表取締役
私は、建設業界に成り手がいないのは、夢が持てないことが原因の一つだと思っています。家族を養い、家を持つなど、将来が描けるモデルにつながるよう、社員の独立を支援する取り組みを進めています。これまでに3名が起業を実現しており、今後は20名の起業を目指しています。
経営者になったときに、どんどんと便利になっていく世の中を踏まえ、将来のことを見据えてDXなどの取り組みに対して投資をする必要があると思います。経営者が便利なものを理解して活用していかないと、会社を残すということは厳しいですからね。
株式会社幸建では、現場からバックオフィスまで、すべての社員がDXに取り組めるように様々な工夫をしたシステムを導入していました。
複雑なシステムをそのまま活用するのではなく、社員や協力会社にとって無理のない形で導入できるような方法を考えることが、業務を効率化するための“カギ”なのですね。