業務効率化だけではない、DXを用いた会社の進化
「DXの必要性は感じているが、まだ取り組んでない……」
急速に変化しているデジタル環境の中で、今や、企業が持続的に成長していくためには、“DXの推進”や “生成AI”の存在が欠かせません。
今回は愛知県内でDX支援に取り組む専門家、株式会社cloverS 代表取締役 久堀駿介さんに「DX人材とは何か」「DX人材の育成とは」、そして話題の「生成AI」との向き合い方についてお話を伺いました。
❶ DX人材ってなに? ──システムを導入しただけでは現場は動かない

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単にデジタル技術を導入することではありません。
経済産業省の定義にもあるように、データやデジタル技術を活用し、製品・サービス・ビジネスモデル、さらには業務プロセスや組織文化までを変革し、企業の競争力を高める取り組みです。
その変革を推進するのがDX人材です。
DX人材とは、社内のDXを推進できる人材であり、経営ビジョンに描かれた「実現したい未来」に向けて、取り組みを社内全体に広げ、プロジェクトを前に進める役割を担う人材を指します。さらに、社内で新たなデジタル人材やDX人材を育成する役割も担います。
こうしたDX人材を育成するために、まずは企業として「なぜDXに取り組むのか」という目的と、「DXを実現して何をしたいのか」というゴールを明確にすることが欠かせません。この2つが曖昧なままでは、何をすべきか、どんな人材を育てるべきかも定まりません。
DX推進の目的とゴールが明確になったら、次に自社に必要なDX人材像を定義します。例えば──
・データ活用を進めたいなら → データ分析スキル
・顧客理解を深めたいなら → マーケティングスキル
この「目的とゴールの明確化」から「人材像の定義」までが、DX人材育成の第一歩となります。
つまりDX人材とはシステムを操作するだけでなく、“人”や“組織”を見渡す力が求められているのです。
❷ DX内製化のはじめ方 ──今ある人材の現場主導の育成法
そもそも中小企業は、一般的な人材採用そのものが難しい状況にあります。応募が集まりにくく、採用できても定着に苦労するケースが少なくありません。
当然ながら、ITスキルや専門知識を備えたDX人材を新たに確保する余裕もなく、外部からの採用は現実的にハードルが高いのが実情です。
さらに、DX人材にはITスキルや情報収集力だけでなく「業務を深く理解していること」が重要です。この点では、外部採用の人材よりも、日々業務を担っている既存社員の方が有利です。
だからこそ、社内で業務を熟知した人材を、DX人材へと育成することが、最も現実的かつ効果的な選択肢になります。
この育成を進めるには、経営者や経営陣が「時間・お金・労力を割いて育成に投資する」という意思決定をすることが不可欠です。単に担当者任せにするのではなく、会社が前面に立って主導する姿勢が、育成の成果を左右します。
加えて重要なのが、社内の空気づくりです。私はこれを「社内マーケティング」と呼んでいます。なぜDX推進に取り組むのか、どんなメリットがあるのかを社内で理解してもらわなければ、人は動きません。最初は抵抗感があっても、「これなら便利だ」「業務が楽になる」と実感できる場面を重ねることで、徐々に受け入れられるようになります。
そのきっかけになるのが、“楽しい成功体験”だと考えます。小さな成功を積み重ね、「やってよかった」という実感が生まれれば、現場は次の一歩を踏み出す力を得ます。
小さな取り組みの積み重ねによって社員の中から“小さな旗振り役”が育つことが、社内にポジティブな空気を広げ、DXの定着を加速させます。
❸ 生成AIの活用 ──自分主軸で生成AIを活かす力を磨く
生成AIは、使い方次第で中小企業の成長を飛躍的に加速させる可能性を秘めていると考えています。
活用できる人が増えれば、それだけ組織の可能性は大きく広がります。だからこそ、今の時代、個々人のスキルアップは非常に重要です。
(ただし、機密情報の取扱いや生成AI活用のレベルといった正しいリテラシーが伴わなければ、リスクもあるため、企業としては「どう使うか」というルールや仕組みを整えていくことも大切です。)
私は、生成AIはいわば“脳の拡張機能”として捉えています。こちらから的確な問いや指示を投げかけて初めて力を発揮します。つまり、自分の考えや意図を明確に言語化できなければ、十分な成果は引き出せません。
私自身、DX分野についてはこれまでの知見や経験があるため、ChatGPTとも比較的高度な議論ができます。 一方で、例えば、「取材を受ける」といった分野では、私は素人同然です。そんな状態でChatGPTに取材班を組ませても、恐らく、形だけのチームにしかなりません。ましてや、自分が基軸とならず、安易にChatGPTに任せてしまえば、方向性を誤り、的外れな結果にさえなり得ます。
日々の業務の中でAIに触れる“きっかけ”を作ることで、AIに対する抵抗感はグッと減ります。ただし、これらはきっかけにすぎません。
生成AIには「面倒だけれど重要な作業」を補完する力があります。
【現場での生成AI活用例】
・企画書のドラフト作成
・社内マニュアルのたたき台
・定型メール文の自動生成
・会議の議事録
生成AIは万能ではありません。だからこそ、生成AIを「パートナー」として活用するためには、「生成AIを使いこなす側」としての自分自身のスキルを高めていくことが不可欠です。使い方次第で、その可能性は無限に広がります。
❹ DXを導入する企業にとって大切なこと
ここまでの話と重複しますが、DX推進を成功させるためには、まず、ビジョンを描き、その目的を明確にして社内に展開することが欠かせません。 「なぜDXに取り組むのか」「実現して何を目指すのか」が経営層から示されなければ、現場の担当者は方向性を持って動くことができません。
経営層自身が変革の重要性を理解し、推進の動きを全面的に肯定・支援する姿勢を示すことが大切です。担当者任せにせず、予算を確保し、進捗を定期的に確認し、管理者層の理解を得ながらDX推進を企業風土として根付かせていく必要があります。
DX推進は、ツールの導入や担当者を任命するだけでは成り立ちません。
経営層と現場が同じビジョンを共有し、互いに役割を果たし続けることで初めて前に進みます。形だけではない、本気の体制と行動こそが、DX成功の鍵となるのです。
・DXに関連する予算や時間を確保する
・「学ぶことが評価される」人事制度を整備する
・失敗を許容し挑戦することを評価する文化を作る
一度限りの表明ではなく、“日常の言葉”にすることで社員は“会社は本気なのだな”と感じ、社内の雰囲気が少しずつ変化します。DXに限らず、人材育成に特効薬はありません。だからこそ、日々の積み重ねが“強い組織”を作るのです。
専門家プロフィール
株式会社cloverS
代表取締役 久堀 駿介氏
コンサルティング会社で中小企業の業務改善に従事後、2019年に株式会社cloverSを設立。バックオフィス支援を軸に創業し、その後、企業のDX推進支援へと事業を拡大。2022年より愛知県デジタル人材育成支援事業のアドバイザーとしても活動。現在は、DXを推進できる人材の育成を中心に、中小企業の成長支援に取り組む。「仕組みとヒトと組織の成長」を目指し、DX人材育成やDX推進の情報発信にも注力している。
