第一回
話すのが苦手?
それなら聞き上手になればいいじゃない
日本経団連が、2018年度に発表した「新卒採用に関するアンケート調査結果」によれば、選考にあたって重視した点は、16年連続で「コミュニケーション能力」なのだそうです。それだけ、社会人にはコミュニケーション能力が期待されているのでしょう。
一方で「コミュニケーションが苦手」と思っている人も少なくないのではないでしょうか。あなたはどうですか?
ところで、「コミュニケーション能力」といったとき、どのような人をイメージするでしょうか。多くの人は「話し上手」や「社交的」といった印象をお持ちなのではないかと思います。
コミュニケーション能力を要素に分解してみると、「伝える」はもちろんのこと、そのほかにも「観察する」「信頼関係をつくる」「話を聞く」「質問する」「リードする」といったものがあります。つまり、「話し上手」や「社交的」はコミュニケーション能力の一部の要素でしかなく、それがすべてではありません。
また、コミュニケーションは、大きく分けると「言語」(言葉そのもの)と「非言語」(顔の表情や声のトーン、ジェスチャーなど)によって行われています。「伝える」「話を聞く」「リードする」は言語のコミュニケーション、「観察する」「信頼関係をつくる」は非言語のコミュニケーションです。ここでいう「信頼関係」とは、いわゆる「同じ釜の飯を食う」といったものではなく、「〇〇さんといると、なんとなく気分がいい」「心の距離が近く感じる」という感じ。たとえば、笑顔で、やわらかい雰囲気の人は、近づきやすい感じがしますよね。それもコミュニケーションの一つです。
つまり、言葉を発しなくても、コミュニケーションはできるし、コミュニケーション上手になれるわけです。
もし、話すのが苦手なら、無理に「話し上手になろう」としなくても大丈夫。それならば「聞き上手」になればいいのです。聞くのが苦手なら、観察や雰囲気作りからはじめればいい。「笑顔でいる」だけでも、立派なコミュニケーションです。逆に、話し上手ばかりだったら、うるさくて仕方がないじゃないですか。聞き上手がいてこその話し上手なのです。
私たちの仕事はコミュニケーションの上に成り立っています。資格や技術的なスキルも大切ですが、それが生きるのは円滑なコミュニケーションがあってこそ。「観察する」「信頼関係をつくる」「話を聞く」「質問する」「伝える」「リードする」……どんな形からでもかまいません。あなたが無理なくできることから、取り組んでみてください。
【筆者プロフィール】
NPO法人しごとのみらい 理事長竹内 義晴 氏
1971年生まれ。元はプログラマー。ギスギスした人間関係でストレスを抱える中、管理職を任されコミュニケーション力の必要性を痛感。その経験から、コミュニケーション心理学やコーチングを学ぶ。現在は「楽しくはたらく人を増やす」を活動テーマに、コミュニケーションの問題によって生じる職場の課題を解決し、楽しく働くことができるようコミュニケーションの講演・研修、講座、コーチング、カウンセリングに従事している。